2019年2月_日本の技、心の技法「金継ぎ」
新たな命を吹き込み、新たな価値を生み出す
今も我が家の茶の間に、蓋の壊れた茶壷があります。それは私が小学校へ上がる前の幼少の頃、茶の間で遊んでいた時にたまたまぶつかって蓋を落とし、割ってしまったものです。それは祖父が大事にしていた茶壷で、中には円筒形の和紙袋に入ったお茶が2、3本入っていました。咄嗟のことで私はガチャンと音のした方を振り向き、思わず祖父と父の顔を見上げていました。その表情から事の重大さに気づき、怒られたのかどうか途中の記憶は途切れてしまいましたが、次の場面、そこには壊れた欠片を一つ一つ集め接着剤で修理していた父の姿がありました。いびつな形で鎮座している茶壷の蓋は、あれから何十年経った今でも、接着剤の色褪せた黄色い継ぎ目が、何か言いたげに私の方を見つめているのです。
この正月明けの休日の午後、何気なくテレビを見ていたら、日本を訪れた外国人に「あなたは何しに日本へ来たのか」と聞いている番組が目に飛び込んできました。そこには30代半ばのポーランド人男性がいて、壊れてしまったアンティークの陶磁器に新たな命を吹き付けてまったく新しい価値を生み出す「金継ぎ」という技法を習いに来たというのです。私は興味津々画面に見入り、無価値なものになってしまった壊れた陶磁器がみるみる新しい命を与えられ、壊れる前の姿よりも尚一層趣きのある器に変わっていく様子に、深く心を揺さ振られていました。
モノは壊れれば無価値なものになってしまうと永年思ってきた私にとって、それは驚天動地の心持ちでありました。壊れたものは無ではない。ましてや無価値なものではないのです。そこに人間の知恵と技と真心があれば、元の無傷なもの以上に、人の心に響いてくる素晴らしい価値が蘇ってくるのだと、つくづく考えさせられたところでありました。
広報あさひまち 2019年2月号より
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更新日:2019年04月11日