2007年7月_人間の仕事

軍師、山本勘助を描くNHK大河ドラマ井上靖原作「風林火山」。毎週わくわくしながら、その放送を待っている昨今であります。
戦国時代の人間の「生き様死に様」。いつもこの時代の小説・ドラマに触れるたび、深く考えさせられるものがあります。

時代は更に遡ること「天平時代」。学生時代読んだこれも井上靖の時代小説「天平の甍(いらか)」の一場面をふと思い出しました。

天平時代の日本人僧「業行」は唐に渡り、二十数年の間誰にも会わず一室に篭って、膨大な経文の写経を続けました。そしてそれを日本に運ぶという、知識の運搬者として自分を限定することで、自分の歴史的使命を果たそうとしました。しかしその彼が日本への帰国途中海難に遭い、自分もそして人生の大半を費やした膨大な写経本も、一瞬の内に海の藻屑と化してしまいました。今もその場面が、私の脳裏に強烈に焼きついています。

現在私達がしている仕事も、より大きな理想とともに、結局徒労ではないかと言う疑念と不安が、時としてつきまとってくるのも事実です。当時の留学僧等は、その習得した経文・知識を無事日本へ持って帰れるかどうかも分からず、また日本のために生かすことができるかどうか分からない知識のために、生涯を賭けているのです。

「人間の行為の意義、無意義を分かつものは、人間の意志を超えている。人間の歴史も、結局人間行為の捨石の上に築かれている。みすみす無駄かも知れない、と知りながらも為さないでいられないのが、人間の真実だろう。」(山本健吉氏)
一つの事業の成就の影には、無数の捨石の石垣が築かれているのです。これら多くの捨石は、ただの捨石ではなく、その意思は受け継がれ、いつか必ず成就する大河の一滴であるのです。もしかしたら、これが人間の仕事なのかもしれません。


広報あさひまち 2007年7月号より

この記事に関するお問い合わせ先

政策推進課 広報ブランド係

〒990-1442
山形県西村山郡朝日町大字宮宿1115
電話番号:0237-67-2112 ファックス番号:0237-67-2117
お問い合わせはこちら

このページに対するご意見をお聞かせください。
この情報をすぐに見つけることができましたか?
お求めの情報が十分掲載されていましたか?
ページの構成や内容、表現はわかりやすいものでしたか?

朝日町役場へのお問い合わせは、各ページの「この記事に関するお問い合わせ先」へお願いします。

更新日:2019年03月29日